『大拙』 (講談社 2018年) ご紹介 安藤礼二
そもそも私が、鈴木大拙(以下、敬称を省略させていただきます)に関心をもつようになったのは、民俗学者で国文学者でもあった折口信夫の研究を進めていく過程で、でした。大学に入学したばかりの折口は、アメリカで活躍していた大拙の著作から大きな影響を受けていたのです。主体と客体の区別、精神と物質の区別が消滅してしまう一元的な領野を大拙は禅(大乗仏教)の経験に探り、折口は神憑り(神道)の経験に探ろうとしていました。アメリカ時代の大拙は、文字通り近代日本思想の起源に位置するのではないのか。そうした視点から、あらためて読み直していった大拙の思想は限りなく広く、限りなく深いものでした。やがて、大拙が生涯の最後を過ごした松ヶ岡文庫にお邪魔するようになり、貴重なお話の数々をお聞きする機会に恵まれました。それ以降、没後40年を記念するムック、松ヶ岡文庫編『KAWADE道の手帖 鈴木大拙――没後40年』(2006年)の編集に携われ、さらにまた私が所属する多摩美術大学で没後50年を記念して開催された展覧会、「大拙と松ヶ岡文庫展」(2016年)に参加することができました。
このたびまとめ上げることができた拙著『大拙』は、そのような得難い出逢いの結晶としてあります。鈴木大拙が創出した未聞の宗教哲学、未聞の大乗仏教哲学のごくわずかな部分でも解き明かすことができていれば、それにまさる喜びはありません。(安藤礼二)
安藤礼二 多摩美術大学芸術人類学研究所所員、美術学部芸術学科教授
主要著書 『神々の闘争 折口信夫論』(講談社 2004年)、『近代論―危機の時代のアルシーヴ』(NTT出版 2007年)、『光の曼陀羅 日本文学論』(講談社 2008年)、『祝祭の書物−表現のゼロをめぐって』(文芸春秋 2012年)、『折口信夫』(講談社 2014年)、『大拙』(講談社 2018年)